J-REITは二度死ぬ

日経平均の史上最高値更新が目前に迫った一方、個人投資家の安定配当商品の代表的な受け皿だったJ-REITは低調。3月13日には精神的な節目だった1700ptを割れ、利回りは4.5%を超えました。

年初来で8%の下落は数字として大したことなさそうですが、価格水準としては、21年7月の2200ptから一本調子に下落し、コロナ後の調整を除けば2018年初以来の安値。2018年初の日経平均なんて23000円台だったのに今や38000円台と60%以上も上昇しています。

いくらJ-REITが高利回り商品と言えども、株式との利回りギャップはせいぜい2%。2%×5年間で10%ほど多く配当もらっても、50%の値上がり幅が逸失利益なわけで、二度とJ-REITなんか投資せん!とお怒りの投資家も多そうです(苦笑)

なお、東証REIT指数が2018年と同じくらいと言っても、分配金利回りは当時の4%に対し、実は現在、4.5%と高くなってます。マイナス金利環境下で高騰した不動産を低利回りでバカスカ買ってたのに不思議な感じですが、①当時に比べて物流、住宅、オフィスの賃料がしっかり上昇していること、②LTVが上昇していること、③売却益の内部留保で分配金が嵩上げされていること、④投資口価格が高値の時にNAVプレミアムで増資したこと、が主要な理由として挙げられます。

オフィスが不調不調とよく言われますが、マーケット賃料は2018年1月が19,159円、2024年1月が19,589円。フリーレントや稼働率を考慮する必要はありますが、実質賃料は遅行性ありますので2018年比ではプラス効果でしょう。

ではなぜJ⁻REITがこんなにボロボロなのか。

J-REITはリーマンショックで一度死にました。J-REITは絶対に潰れないと当局からお墨付きをもらっていたのにも関わらずニューシティレジデンス投資法人が民事再生。背景は端折りますが、まあこれは事故みたいなものとしても、取得資金の調達が出来ず売買契約のフォワードコミットメントの違約金で赤字になったジャパンシングルレジデンス、それこそ借入の満額折り返しをさせてもえず、物件をバカスカ安値で売らされたJ-REITなんていくらでもありました。当時住宅REIT最大手だった日本レジデンシャルの実績ベースの利回りが20%なんてことも新聞で取り上げられた気がします。

そこからJ-REITは不死鳥のごとく、とはいきませんでしたが、大和ハウスリートのIPOが利回り6%近くでなんとかローンチしてプライマリーマーケットが復活し、ガチガチの運用を続けているうちになぜだか日銀がJ-REITを買い始め、オフィス、住宅の賃料上昇、物流セクターの拡大も大きかったです(物流セクターが今の価格下落の根源ではありますが)。

ただ、そこでリーマンショック前の、言わば規律が緩々のJ-REIT市場に戻ってしまった感があります。都心物件の高値買いはもちろん(リーマンショック前はNBFの南青山とJPRの千駄ヶ谷がシンボリックな取引でした)、利回りを求めて地方に触手を伸ばし、高値の投資口価格を利用して碌な成長ストーリーもない一過性のファイナンスを繰り返し、挙句にLTVを引き上げる有り様。J-REITをサポートしてきた金融庁、国交省もすっかり興味をなくして、少しずつ進んできたJ-REITの財務柔軟性の進化も完全に止まってしまいました。絶えず進化して内部運用化に踏み切ったシンガポールREITに比べると、日本の行政が如何に短期的な視点でしか物事を考えてないかよく分かります。

外部環境の変化に弱いストラクチャーなのに、かつての痛みを忘れてしまった(厳密には、未経験の新興REITと総合商社系のREITだけがやらかした)、何かがあった場合にマイナスの回転に入る地合が整ってしまいました。

世界中の金利が上昇し、周回遅れで日銀が金融引き締めを始める頃には世界経済は脆弱になっているので、日本企業は日銀に先んじて耐ショック姿勢を取らなければならない歴史を3度は繰り返してるはずのに、J-REITは今回もノーガードで利上げ局面に踏み込もうとしています。

最後の頼みは利回りですが、4.5%を超えていると言っても長期金利とのイールドギャップは過去平均比ではリスクオフモードではありません。あと0.5%は上昇してもおかしくあいません。

日銀は早ければ3月にマイナス金利解除、遅くとも4月にはという状況になっており、それを先に織り込んでいるという考え方も出来ますが、では米国REITはどうだったか。

21年末に高値を付け、22年3月からFedの利上げが始まり、利上げはそれほど大したことはないし、不動産はインフレに強い商品だ!と言われつつ、23年10月まで下落を続けました。率にすると高値から40%下落です。

J-REITが同じ道筋を辿るなら、日銀の利上げが今月か来月とすると、そこから1年半かけて下落局面が到来することになり、コロナ後の高値2200ptから40%の調整とすると1320ptがボトムになります。高値の時期が米国REITとJ-REITではかなりズレているので同じリズムとは思えませんが、今のJ-REITの分配金が売却益と内部留保で嵩上げされていること、金利コストの上昇がこれからだとすると、今のDPU水準が継続し、1320ptまで価格調整した時の利回りが6.0%ということはないでしょう。直ちに1580ptまで調整して利回り5.0%まで上昇した後、ゆっくりとDPUが低下し、それに伴い価格が低下し、1320ptになっても利回り5.0%のままなんてことはあり得ます。その場合、不利な価格で合併することになるREITやスポンサーのために希薄化を伴う無茶なファイナンスをして既存投資家のポジションを痛めることもあるかもしれません。

これはあくまで最悪シナリオであって欲しいと思いますが。今のJ-REITが金融緩和のツケを払い始めたフェーズであることは間違いありません。財務柔軟性に乏しいJ-REITに出来ることは物件売却と非上場化くらいです。Fedですら予測もコントロールも出来なかったインフレ抑制のための金利コントロール。日銀は失敗する可能性の方が高く、リセッションか大幅なインフレのどちらかを覚悟しておく必要があります。大手REITはしっかりハードランディングに備えてますが、それ以外はどうなるか予測不能です。